こころを救う:過量服薬、救命現場が警鐘 治療薬、自殺手助け

こころを救う:過量服薬、救命現場が警鐘 治療薬、自殺手助け
http://mainichi.jp/life/today/news/20100624ddm001040046000c.html魚拓

 自殺者が12年連続で3万人を超えた。心を病んだ人が治療を受ける機会は増えているのに歯止めがかからない。命を絶つ前に精神科や心療内科を受診していたのは半数に上るという調査もある。救えない命だったのか。医療現場から自殺対策の課題を探る。
 ◇精神科乱立、安易な処方も

 「お薬飲んじゃったんですか」。「どこでもらったんですか」。6月初旬、東京都武蔵野市の武蔵野赤十字病院救命救急センター。救急医の呼びかけに、運び込まれた女性(37)はうつろな目でわずかにうなずく。医師3人とともに処置に追われる須崎紳一郎センター長(55)に、救急隊員が空の菓子袋を差し出す。中にあった向精神薬約200錠はすべて女性が飲んでいた。

 重症者が年間1400人搬送される都内有数の救急病院。向精神薬を大量に飲んで自殺や自傷を図る患者は増え続ける。若い世代を中心に年150~160人。全体の1割を超えた。搬送前に死亡が確認された人は、ここには運ばれてこない。

 生死にかかわる過量服薬があまりに多いため、患者の回復後に病院が聞き取りしたところ大半が市販薬ではなく、精神科診療所などの医師が処方した薬と判明した。一度に飲んだ量は平均100錠になる。「これほど大量なのに処方はわずか数日分。治療薬が逆に自殺行為を手助けしている」と須崎医師は憤る。

 患者の一人が飲んでいた薬のリストがある。1回分が7種類。「これもこれも、名前は違うがすべて睡眠薬。1種類でいいのに。こんな処方は薬理学上あり得ない」。最も多い人は抗うつ薬4種類、睡眠薬4種類、抗不安薬2種類など一度に14種類を出されていた。複数の精神科専門医は「常軌を逸している。副作用に苦しんだり薬物依存に陥る可能性も高くなる」と指摘する。

 搬送患者の通院先を調べると、いくつかの医療機関に絞られた。便利な「駅前」が目立つ。須崎医師は「薬物治療の知識が足りないのか、患者の要求通りに出しているのか......」と不信を募らせる。

 08年の全国の精神科・心療内科の診療所は3193。10年間で5割増えた。向精神薬の市場も成長し、調査会社「富士経済」によると、08年の売り上げは10年前の2倍以上にあたる約2976億円。国は自殺対策基本法で「自殺のおそれのある人へ必要な医療を適切に提供する」とうたっているが、受診が広がる中、医療機関の質のばらつきが際立つ。

 過量服薬した後のケアも自殺対策の大きな柱だ。未遂者は、その後既遂に至る割合が格段に高いとされるためだ。ところが、入院させて心身両面から治療できる総合病院の精神科は診療報酬が低く、病院経営を圧迫して減少の一途。一方、勤務医は診療所を開業する。武蔵野赤十字病院にも精神科の入院病棟はない。体が回復すれば退院せざるを得ないため、心の継続的なケアは難しい。

 須崎医師らは患者の家族を交えて相談し、元の医療機関へ通院するしかない場合は、主治医あての紹介状を持たせて送り出す。「自殺予防に十分配慮をお願いします」。しかし、再び大量に処方された薬を飲んで運ばれてくる患者は少なくない。「救急で命を救っても、これではむなしすぎませんか」【江刺正嘉、奥山智己、堀智行】

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 ■ことば
 ◇向精神薬

 中枢神経系に働いて精神機能に影響を与える物質。作用によって▽睡眠薬▽抗不安薬▽抗うつ薬--などに分類され、治療での適正な使用が求められている。物質によっては、依存性と乱用で心身に障害を引き起こす危険性がある。

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