精神科医療に「心のつながり」の保証を

自殺予防総合対策センター
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トピックス:精神科医療に「心のつながり」の保証を

 近年、若者たちの向精神薬の誤用・乱用が問題となっています。処方された向精神薬をため込み、あるときそれらを過量服薬して自殺未遂をはかり、救命救急センターに搬送される者が増えています。また、薬物依存症専門病院に受診する向精神薬依存症患者も増加傾向にあり、なかには、複数の医療機関から向精神薬を入手し、乱用している者もいるようです。
 しかしその一方で、精神科薬物療法によって、恩恵を受けた患者も計り知れないほど多く存在します。また、現在の精神科医療の水準に照らして、いかなる患者にも薬物療法を一切行わない医師がいるとすれば、それは別の意味で非倫理的と言えるでしょう。「自殺を誘発する」などの危険性が危惧されているSSRIという抗うつ薬にしても、最近の研究では、全体としては自殺者減少に貢献をしていることが確認されています。
 それでは、私たちの社会は、向精神薬の誤用・乱用にどのように対処したらよいのでしょうか? 緩和された向精神薬の処方日数制限を再び厳しく規制すべきという意見があります。しかし、精神科医療機関への通院が困難な地域に住んでいる方にとっては、長期処方の恩恵は大きいことを忘れてはなりません。
 私たちは、解決策のキーワードは精神科医療に「心のつながり」を築く時間を保証することであると考えています。本来、精神科医は、治療薬とともに「心のつながり」も処方するものであり、処方された薬には「主治医の分身」としての意味があります。いいかえれば、処方とは、それ自体が精神療法的なプロセスなのです。
 過量服薬を繰り返す患者のなかには、様々な傷つき体験を繰り返す中で、人間不信となっている者も多く、丁寧に話を聞かなければ、「心のつながり」は築けない状況に陥っています。これは、日に何十人もの患者を、慌ただしい短い診察でさばかねばならない精神科医―そうしなければ経営的にも苦しいのが実情です―には、きわめて困難な作業となります。
 わが国の自殺対策は、「総合対策」の名の下に、借金、失業、過重労働といった社会的な対策に力が注がれてきました。もちろん、これらはとても大切ですが、結果的に、「精神科医療の質の向上」という課題がおざなりにされてはなりません。
 精神科医療に患者さんとの「心のつながり」を築く時間を保証すること―それがこれからの自殺対策に必要と考えます 。

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