アディクションと依存症

アディクションと依存症
あとがきにかえて

 今回のブックレット「にっせいしん」第2号では,「アディクション―依存症等へのアプローチ」として特集を組みました。このところ,若者のドラッグ問題が深刻になっており,一部の芸能人の「薬物汚染」もマスコミをにぎわせています。昔からのアディクションの代表として,アルコールの問題は相変わらずです。これらの古典的なアディクションに加え,このところギャンブル癖や過食症などもアディクションとみなされることがあり,これらも大きな問題となっています。
 「アディクション」という用語は,実は古い医学用語です。アルコールや薬物を「わかっちゃいるけどやめられない」状態は,1960年代末までその程度やいわゆる禁断症状の有無によって「嗜癖(アディクション)」や「習慣」と呼ばれていました。しかしこれらの概念は,乱用される薬物を分類するには不適切であることがわかってきて,1968年,世界保健機構(WHO)は,「依存」という用語を用いるように勧告したのです。
 「依存」には心理的に頼るという意味もあるため,心理学的な概念と思われがちですが,本来はそうではありません。依存そのものは,嗜癖や習慣という用語が用いられていた当時から,薬がきれたときに,いわゆる禁断症状が出るような生体の状態をいい表すために用いられており(身体依存),元来は生理学・薬理学的な概念でした。
 このような生理学的用語が,薬物依存の本質である「強迫的欲求がある(わかっちゃいるけどやめられない)」状態を意味する用語,すなわち「精神依存」に借用されたわけです。つまり「薬物依存」とは,生理学・薬理学的概念に由来し,途中から心理学・精神医学的な意味が加わったということになります。なお,アメリカの公式の精神医学では,今でも薬物依存といえば身体依存のことで,精神依存にもとづく臨床的現象は「乱用」と呼ばれています。
 WHOの定義では,「依存」が病気であるともないともいっていません。しかし,依存状態は,さまざまな健康問題に結びつきます。そこで,精神依存と身体依存,さらにその結果おこる種々の臨床的問題(中毒等)をひっくるめて,わが国では「依存症」という用語が用いられています。この場合,精神依存しかみられなくても依存症ということができます。
 「アディクション(嗜癖)」という用語は,すくなくともWHOが廃止したにもかかわらず,今でもしばしば用いられているのはどうしてでしょうか? 「モノ」や「コト」への強いのめりこみを表現するのに,「依存」や「依存症」では何か物足りなさを感じるためかもしれません。アルコール・薬物依存以外の「わかっちゃいるけどやめられない」状態に,元来,生理学・薬理学的な概念である「依存」を用いることに違和感があるせいかもしれません。アメリカで,アディクションという用語が用いられ続けていることも日本に影響しているとも思われます。
 ところで,本来の医学用語としての「アディクション」は,今風にいえば強い精神依存に加え身体依存のある状態,と定義されていました。しかし,このところの使われ方をみると,ほぼ「わかっちゃいるけどやめられない(精神依存)」の意味で用いられているようです。
 このほか,ある種の不健康な人間関係をアディクションととらえ,これを「共依存」(コ・デペンデンシー)ということがあります。身近な相手(A)を繰り返し心配させることで支配する人(B)と,依存する人(B)を助けることで充実感を抱く人(A)との硬直した二者関係を「共依存」といいます。典型はアルコール依存症の夫(B)とその妻(A)との関係です。またAのことを「イネイブラー」(支え手)といいます。
 以上,アディクションを理解するのに必要なキーワードをいくつか解説しました。
(日本精神神経科診療所協会会誌編集委員会)

日本精神神経科診療所協会
http://www.japc.or.jp/
ブックレット「にっせいしん」No.2 特集「アディクション-依存症等へのアプローチ」
http://www.japc.or.jp/pdf2/book/book2.pdf

月別 アーカイブ

Powered by Movable Type 5.2.10