悩ましいアルコール0%

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悩ましいアルコール0%
(朝日新聞2011年1月8日紙面)
妊婦・子どもへの販売に異論

 お酒のようでお酒ではない、ノンアルコールビール。ハンドルを握る立場でも安心してビール気分が味わえると人気で、売れ行きは2年で7倍と絶好調だ。しかし「妊婦への売り込みはやめて」「子どもには売るべきではない」など異論も出てきた。新しい発想の飲み物だけに、「つきあい方」に悩む人も少なくないようだ。(角谷陽子)

キャンペーン中止

 「ああ、おいしい」。第一子に授乳中だった2009年、初めてノンアルコールビールを口にした会社員の女性(36)は、1年ぶりの「あの味」に涙ぐみそうになった。
 赤ちゃんに悪影響を与えるのが心配で、妊娠がわかってからずっと禁酒していた。だが、授乳中はのどが渇く。家族が食事する時は、みんなビールをゴクゴク。「代替品が出てきて本当にありがたいと思った」という。
 「こんな飲み物を待っていた」。キリンフリーを09年春に発売したキリンビールには、妊産婦から好意的な電話が相次いだ。ニーズがあると判断した同杜は10年春、妊婦が公園でフリーを飲むテレビCMを放送。5月の母の日の前には、産院で商品を配るキャンペーンも予定していた。
 ところが「待った」がかかった。アルコールなど依存性薬物問題に取り組むNPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)が、「酒を飲む若い女性が増えており、妊娠・授乳期は飲酒習慣を断つチャンス。ビールの代替物を飲み続けていると、また酒を飲む生活に戻ってしまう」と、キャンペーンをやめるよう要望書を出した。キリンはキヤンペーンを中止した。

依存の問題は残る

 キリンがアルコール0・00%をうたう商品を売り出したのはCSR(企業の社会的責任)の一環で、「飲酒運転をなくしたい」との思いがあったという。実際、ゴルフの後に運転して帰る時や、酒を飲めないのに酒席に出なければならない場合に重宝され、各社も相次いで発売、需要が一気に広がった。
 一方、この商品は「飲酒習慣」という精神的な依存の問題までゼロにしたわけではない。アルコール依存症専門病院の新生会病院(大阪府和泉市)には通院患者から「ノンアルコールビールなら飲んでいいか」という質問が届いている。
 アルコール依存症には、アルコールが切れると汗が出たり手が震えたりする身体依存と、「酒がないといられない」「物足りない」と思う精神依存がある。
 「ノンアルコールビールは確かにアルコールは摂取しないが、精神的にはビールを飲む行為と極めて近い」と和気浩三院長。「酒がない生活への回復を妨げる恐れがある」として、患者に飲まないよう指導している。

店頭の年齢確認は

 さらに悩ましいのが、「未成年者に飲ませていいのか」という問題だ。
 酒税法で酒類とは、アルコール分を1%以上含むものを指す。このためノンアルコールビールは含まれず、各杜は「炭酸飲料」と表示する。未成年者飲酒禁止法も、禁じる「酒類」に明確な定義はない。未成年者がノンアルコールビールを飲んでも、法的には問題は生じない。
 しかし、消費者団体の主婦連合会は「本物のビールを飲むことへの垣根を低くする」として、未成年者が飲むことには反対の立場だ。実際、メーカーも缶には「20歳以上を想定して開発した商品」なとと刷り込んでいる
 小売り側も困惑気味だ。関西スーパーは、店頭で声をかけてまで、購入者が20歳以上かは確認していないという。全国小売酒販組合中央会(東京)はなるべく酒の周辺に置いて売るよう伝えているが、「酒ではないので、20歳未満に売らないとも言えない。そこが悩ましい」(担当者)という。

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