増える高齢者のアルコール依存 定年前から要注意

増える高齢者のアルコール依存 定年前から要注意
2011/9/29付
http://www.nikkei.com/life/health/article/g=96958A96889DE1E7E3E4E7E3E2E2E0EAE2EBE0E2E3E39C9C8182E2E3;p=9694E0E4E3E0E0E2E2EBE1E3E2E3魚拓
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 中高年のアルコール依存問題が深刻化している。団塊の世代を中心とした大量退職の時代を迎え、増加している高齢の依存症患者は認知症や心疾患などを併発し、病状が重くなる場合も多い。他方、働き盛り世代の自殺の背景としてアルコール問題が指摘され始めている。精神疾患や依存症の専門家らからは「老後の生き方も見据えた総合的な対策が必要だ」との声もあがる。

 大手商社に勤めていた東京都世田谷区の大槻元さん(66)は若い頃から酒量は多かったが、海外赴任中に度を越すようになり、帰国後は30代で「出勤前にも一杯ひっかけるようになった」。課長になり責任も重くなった40代に依存が本格的に。酒なしでは落ち着かなかったり脂汗が出たりし、下痢や嘔吐(おうと)など様々な症状が表れた。

 上司の指示で通院したものの、担当の精神科医は依存症は専門外。結局1カ月入院し断酒しただけで、その後も同じことを繰り返し「これ以上はいられない」と47歳で会社を辞めざるを得なかった。退職後に全日本断酒連盟に入り、現在は事務局長を務める。

全体の20%以上に

 断酒連では近年、60歳を過ぎた患者が門をたたく例が増えている。断酒連全体の会員数は減少傾向にあるが、60歳以上でみると2011年は2009人と10年前から400人増、構成比は14.5%から22.6%に跳ね上がった。厚生労働省の患者調査からも同様の傾向がみてとれる。

 アルコール関連問題専門施設の久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)でも、65歳以上の高齢患者は増加しており、同センターの松下幸生副院長は「高齢者は同じ飲酒量でも、他の年代に比べ血中アルコール濃度が高くなる傾向があり、アルコールには弱い」と指摘。認知障害や集中力低下が1週間以上続いたり、高血圧や心疾患など身体疾患や認知症を併発したりして、家族が困った末に入院となるケースもほかの年代に比べ多いという。

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断酒連が開く例会では、参加者が自身の酒害体験や断酒状況などについて話し合う

「薬より断酒」基本

 依存症の治療として代表的なのは、アルコールの害を学ぶ「酒害教育」や、患者同士でグループを作り他の患者の話を聞く「集団精神療法」。同センターでも、まずこれらを行い、加えて断酒会に参加させて断酒をさせている。

 認知症が深刻な高齢者らでは、グループホームなどへの入所も検討。患者に酒を買う金を持たせないことや、家に酒を置かないことなど、「家族への教育も不可欠」(松下副院長)という。

 また「近年は断酒だけでなく、節酒を目標とした治療法も研究が進んでいる」と東京アルコール医療総合センター(東京・板橋)の垣渕洋一医師。節酒の指導と、依存症の一因とされる脳内伝達物質ドーパミンの異常を治し飲酒欲求を抑える飲酒抑制薬とを組み合わせた方法だ。

 徐々に臨床現場で使われ始め、新薬も開発途上にある。ただ、こうした薬も飲酒欲求をゼロにできないので、節酒を目標にできるのは軽度の依存症に限られる。垣渕医師は「ほとんどの人は断酒による治療が基本」と強調する。

 こうした治療はあくまでアルコール依存症を発症した後の対応。そもそも高齢者が発症する場合、「定年後に特にやることがなく、朝から酒を飲みはじめたり、家族に隠れて飲んだりする場合が多い」と、依存症患者の相談を受ける特定非営利活動法人(NPO法人)「アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)」の今成知美代表は話す。

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飲酒による精神・行動傷害の入院患者数(推計)

自殺との関連も

 さらに、こうした60歳以上の患者のほとんどは「現役時代から依存症の素地が作られている」(大槻事務局長)という。"付き合い"の飲酒が10~20年と続いて依存症に発展するケースが多い、定年前の働き盛りの頃から予防策を講じる重要性を強調する。

 ここ数年は働き盛り世代の自殺とアルコール問題の関連も注目されており、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が09年に行った調査では、自殺した有職者のうち3分の1強にアルコール依存傾向がみられ、多くは40~50代の働き盛りの男性だった。今成代表は「大量退職の時代を迎えた今、現役時代から退職後の生きがいや趣味を見つけ、酒に頼らない生き方を見つける取り組みが必要だ」と訴えている。
(八十島綾平、松尾洋平)


◇            ◇


酵素の型の違いが影響 「遺伝6割、環境4割」

 酒の強さは体質――。とはよくいわれるが、確かにアルコール依存症のなりやすさは、アルコールを分解する酵素の遺伝子型の違いが影響しているとされる。アルコールを有害なアセトアルデヒドに変える「アルコール脱水素酵素(ADH1B)」と、アセトアルデヒドを無害な酢酸に変える「アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」だ。

 どちらの酵素にも3種類の型があり、ADH1Bは分解速度が「速い/普通/遅い」型、ALDH2は酢酸に変える機能が「よく働く/普通に働く/全く働かない」型に分けられる。

 これまでの臨床や研究で、最も依存症になりやすいとされるのは、ADH1Bが「遅い」型でALDH2が「よく働く」型の人だ。メカニズムは未解明だが、アセトアルデヒドの発生が遅く、発生すれば素早く無害にするので、多量に飲んでも気持ち悪くならずアルコールが長時間分解されないまま体内に残るタイプ。次いで2つの酵素とも「普通」が要注意だ。

 久里浜アルコール症センターの松下副院長は「依存症に遺伝が関係しているのは確か」とする一方で、「未解明の部分も多い」と話す。近年は、依存症への影響は「遺伝が6割、環境が4割」とも考えられており、松下副院長は「生育歴など周囲の環境も含めて対策を考える必要がある」と話している。

[日本経済新聞夕刊2011年9月29日付]

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