ヤマアラシのジレンマ

Das Dilemma der Stachelschweine - 「心の家路」のブログ

しらふで生きる酒を断ち見えるものとは

酒を飲めるが、あえて飲まないという人が増えている。米国では「ソバーキュリアス(飲まないことを好む)」という。なぜ人は酒と距離を取り始めたのか。

苦闘書いた本人気

作家の町田康さん(58)は約30年間、ほぼ毎日飲んできた酒を、2015年末に断った。昨年秋には「濁酒地獄」から抜け出した苦闘の日々をコミカルに書いたエッセー「しらふで生きる」(幻冬舎) を発表。これが9刷3万8千部と売れている。担当編集者は読者カードの感想などから、「お酒をやめたい人がこんなに多いんだと実感した」という。

断酒は、どう生きるかという人生哲学と切り離せない。町田さんは、「常識を疑いたい」という思いから出発した。「正月だから普通飲むでしょうとか、そういう常識を疑ってみたかった」

酒をやめたことで、創作の際の複雑な思考もより粘り頭くできるようになったほか、犬や猫の世話や部犀の掃除といった「雑事」も楽しく感じられるようになったという。「あくまでも体感ですが」

快楽より効率重視

近年、アルコール離れは進んでいる。国税庁の調べでは、酒類の消費量は1996年度の約966万キロリットルから17年度の約837万キロリットルまで低下。厚生労働省の調査では、「ほとんど飲まない・飲めない」人の割合は07年と17年を比べると、20代男性が約4割から約5割、30代男性が約3割から約4割へ増えた。週3日以上飲酒する「飲酒習慣」のある人は20代男性で97年に31%いたが、17年には16%まで下がった。

米国でも、80年以降に生まれたミレニアル世代を中心に酒を飲まない生き方に注目が集まる。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子・主任研究員は「ミレニアル世代は効率を重視する傾向が強い。酒による快楽と、費やされる時間やお金の大きさ、自己を制御できなくなるデメリットなどを比較し、コストパフォーマンスが低い娯楽と判断しているのでは」とみる。

ベストセラー「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」で物を持たない生き方「ミニマリズム」のブームを起こした元編集者の佐々木典士さん(40)も3年前に酒を断った。早起きがしやすくなり、午前5時からヨガや執筆をする規則正しい生活を送ってきた。「激減した喫煙者のように、飲酒をする人は末来には少数派になっていく」と佐々木さんはみる。

仕事に専念したいという理由で酒を断つ人もいる。日本電産の創業者で会長の永守重信さん(75)は大のビール好きだったが、45歳で断酒した。「断酒を続けており健康です」(広報部)という。

やめるコツも提案

ストレス発散などで飲みたい時にはどうしたらいいのか。町田さんは「自分を普通以下のアホ」と捉え直す「認識改造」を提案する。酒を飲む理由の―つに、「このえらいオレがなんで報われぬのか」という不満の解消があるため、最初から「自分は普通以下のアホ」と考えることで不満を持たないようにできる、というのだ。

「いや自分は普通以上に賢い」と思う人も、「普通」の水準を高めに設定すれば、「普通以下のアホ」と謙虚になることができ、うっぷんもたまらなくなる。そして究極的には「他人と比較すること自体をやめる」のがいいという。(赤田康和)

お酒を飲まない人が増えている背景は?

  • 健康志向の高まり
  • 低成長時代ゆえの節約志向
  • 自己管理欲求の高まり
  • 飲みニケーションの価値の低下


ニッセイ基礎研究所の久我尚子主任研究員の分析による

朝日新聞 2020年2月11日(水)

大塚製薬とルンドベック社 減酒薬「nalmefene」(ナルメフェン)の日本における共同開発・商業化を合意

大塚製薬とルンドベック社 減酒薬「nalmefene」(ナルメフェン)の日本における共同開発・商業化を合意 ~『お酒と上手に付き合う』新しい治療コンセプトの提案~
http://www.otsuka.co.jp/company/release/2013/1031_01.html魚拓

大塚製薬株式会社
2013年10月31日

  • 精神疾患の中でも、アルコール依存症は自身の健康を損なうだけでなく、社会的・経済的な影響が大きいとされ、対応が急がれている。現在、日本では治療が必要なアルコール依存症患者さんは約80万人いると推計され※1、アルコールに起因する医療費や労働・雇用に関する損失は1年間で総額4兆円と推定※2
  • アルコール依存症の主たる治療は入院や抗酒薬を用いた「断酒」だが、その治療ゴールの高さが障壁となり継続が困難。「減酒」という新しいコンセプトを持つ「nalmefene(一般名)」(ナルメフェン※3)は、社会復帰を目指す患者さんにとっても継続可能な新たな治療選択肢として期待される
  • この度の契約は、大塚製薬とルンドベック社の統合失調症やアルツハイマー病などのグローバル中枢薬事業(2011年11月締結)に加えて、新たな事業提携となる。大塚製薬は、契約一時金として50百万ユーロ(約65億円※4)をルンドベック社に支払う

大塚製薬株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:岩本太郎、以下「大塚製薬」)とH. ルンドベックA/S(本社:デンマーク、コペンハーゲン、CEO:ウルフ・ウインバーグ、以下「ルンドベック社」)は、アルコール依存症における減酒薬として「nalmefene」(ナルメフェン※3)を日本で共同開発・商業化することについて本日合意しました。

日本では、社会情勢の変化や高齢化により、うつ病やアルツハイマー病などの精神疾患の患者数はますます増加傾向にあり、その対応が急がれています。中でも、アルコール依存症は自身の健康を損なうだけでなく、社会的・経済的な影響が大きいとされ、直接的な医療コストは1兆円、労働や雇用の損失によるコストは3兆円、総計で年間4兆円に達すると言われています※2。

アルコール依存症でとりわけ問題になるのは、疾患に対する正しい認識の不足や限られた治療選択肢のために、社会復帰への道が閉ざされてしまっていることです。現在、国内には約80万人の治療が必要なアルコール依存症患者さんが存在すると推計されていますが、実際に治療を受けているのは約4万人に過ぎません。これまでの、入院による断酒や抗酒剤の使用以外の治療方法を選択できることによって、治療へのアクセスやアドヒアランスを向上させることが期待できます。

「nalmefene」(ナルメフェン※3)は、飲酒要求時に服用することで、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体を拮抗し、飲酒欲求を抑制する初めての頓用薬としてルンドベック社が開発を進めてきました。『お酒と上手に付き合う』という考え方のもと、減酒を目的とした頓用薬「nalmefene」(ナルメフェン※3)は、社会復帰を目指す患者さんにとっても継続可能な新たな治療の選択肢として期待されています。なお、欧州では「SelincroⓇ」(セリンクロ*3)の製品名で2013年4月から販売されています。

現在、国内では「健康日本21」への取り組みや、「アルコール健康障害対策基本法」の早期成立を目指すことで、多量飲酒者を減少させ、節度ある適度な飲酒を促す動きがあります。「nalmefene」(ナルメフェン※3)は、これらの取り組みに貢献できると考えています。

大塚製薬の代表取締役社長の岩本太郎は、今回の新たな合意について「アルコール摂取が依存的となり止められないことによる健康被害は、日本においても大変重要な課題です。継続できる治療として、飲酒量を減量させるという新しい概念である減酒薬を、我々のグローバル中枢薬事業の一環として日本で展開できることを大変嬉しく思っています」と述べています。

ルンドベック社のCEO兼社長のウルフ・ウインバーグは「日本では、アルコール摂取量の低減という効果的な治療が必要とされながらも実際には行われていません。我々は既にこの製品を欧州17カ国で展開しています。この販売経験を活かして、日本でのパートナーである大塚製薬と一緒にこの薬剤の開発を推進していけることを大変嬉しく思っています」と述べています。

大塚製薬は、ルンドベック社に契約一時金として50百万ユーロ(約65億円※4)を支払い、この一時金に開発・承認ならびに売上達成金を加えると最大で約100百万ユーロ(約130億円※4)をルンドベック社に支払います。ルンドベック社は、日本での開発費を負担し、共同販促の権利を有します。また、日本向けの錠剤バルク生産をルンドベック社が担当します。「nalmefene」(ナルメフェン※3)の国内での臨床第III相試験は、2014年に開始する予定です。

大塚製薬とルンドベック社はグローバル中枢薬事業で、大塚製薬創製の「エビリファイ メンテナ」、「ブレクスピプラゾール」とルンドベック社の「Lu AE58054」を含む3つの化合物を共同開発、共同販売する契約を2011年11月に締結しました。この度の「nalmefene」(ナルメフェン※3)の契約は、2011年の契約とは別途の契約になります。今回の合意に至ったことで、大塚製薬とルンドベック社の協力体制はますます強固なものとなります。両社は今後も世界の中枢神経領域の治療発展を重視してまいります。

※1 尾関米厚、松下幸生、白坂知信、他:わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査. アルコール研究と薬物依存40:455-470、2005
※2 Nakamura N, Tanaka A, Takano T. The social cost of alcohol abuse in Japan. J Studies on Alcohol, 54: 618-625, 1993
※3 カタカナ表記は読み方を示すものです。
※4 為替レート: 1ユーロ=130円


参考

「nalmefene」(ナルメフェン)について

「nalmefene」は、オピオイド受容体拮抗薬です。オピオイド受容体は、中枢神経系に広く分布し、脳内報酬系や情動制御、痛みのコントロールなどを司り、これまでに3つのサブタイプ(μ、κ、σ)が知られています。「nalmefene」は、μ受容体に働きかけて報酬効果を調整し、κ受容体を介して嫌悪感を抑制することによって、飲酒誘因刺激への過度な反応を抑え、減酒に伴うストレスを緩和させることが可能と考えられます。また受容体親和性が高く、半減期も長いことから、飲酒欲求を抑制することに繋がります。既に販売を開始している欧州では多量飲酒リスク高値(男性では1日60g、女性では1日40g以上の飲酒量)の成人のアルコール摂取量を低減させるという適応をもつ世界初のアルコール依存症治療薬です。

アルコール依存症について

アルコール依存症をひとことでいうと、「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」です。具体的には、飲酒のコントロールができない、離脱症状がみられる、健康問題等の原因が飲酒とわかっていながら断酒ができない、などの症状が認められます。確定診断はICD-10診断ガイドラインに従います(表1参照)。

アルコール依存症の患者さんは、本来、飲酒してはならないような状況でも強い飲酒欲求(飲酒渇望)に苛まれます。また、中枢神経がアルコールに依存している「離脱症状」(表2参照)や、否認(本人が問題を認めない)や自己中心性(物事を自分の都合のよいように解釈する)などの心理特性が認められます。更に、暴言・暴力、徘徊・行方不明、妄想などの精神症状や行動異常を伴うこともあります。

治療は外来でも可能ですが、日本では入院治療が主体です。入院治療は、「解毒治療」、「リハビリ治療」、「退院後のアフターケア」の3段階に分けられます。アルコール依存症は早期発見、早期治療が重要です。早期の方が、アルコールによる健康や社会的影響が小さく、また、家族崩壊も未然に防ぐことができます。
※ 「アルコール依存症について」:厚生労働省、みんなのメンタルヘルス総合サイト、『アルコール依存症』より抜粋

アルコール依存症 飲みたい衝動、薬で抑える 心理社会的治療の一助に

アルコール依存症 飲みたい衝動、薬で抑える 心理社会的治療の一助に
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57743720V20C13A7EL1P01/ (魚拓
2013/7/26付

 適量であれば「百薬の長」でもあるお酒だが、度を過ぎて飲み続けてしまうと、いつもアルコールが欲しくなる依存症に陥ってしまう。健康を害し、きちんと働けなくなる。本人だけではなく家族にも大きな負担がかかる。こうなってからの禁酒は、相当の強い意志がないと難しい。そんな中、お酒を飲みたいという欲求自体を抑える新薬が登場した。専門家は依存症の治療を手助けできると期待を寄せている。

 アルコール依存症の患者は約80万人いるとされ、依存症の疑いがある人は440万人という。男女比は6対1で男性が圧倒的に多い。ただ、男性は50代が多いのに対して、女性は40代が目立つ。女性は、体が小さく、アルコールの影響を受けやすいと推測される。

 アルコールを飲むと、多弁になったり、気が大きくなったりと、興奮状態に陥る。日本酒1合やビール大瓶1本程度ならストレス解消につながるものの、自分を見失うような飲み方を続けると「過剰興奮」の状態が続いて脳内の神経バランスが崩れてしまう。

■脳内の神経に作用

 脳の中枢では、「興奮性神経」と「抑制性神経」がてんびんのようにバランスをとっている。

 アルコールを飲むと、まず抑制性神経が刺激され、続いて興奮性神経も反応する。アルコールを繰り返し摂取し続けると、興奮性神経を過剰に働かせる作用が体に表れる。抑制性神経の活動を再び増やそうと、アルコールを脳が求めてしまう。アルコールから離れられなくなり、平日の昼でも飲んでしまうという状態に陥る。

 日本新薬が5月から販売を始めた新薬「レグテクト(一般名・アカンプロサートカルシウム)」は、この神経バランスを、薬の作用によってバランスのとれた均衡状態に導く。

 1日3回、食後に服用すると脳の中枢にある興奮性神経を抑制する。興奮性神経の働きが減衰すると、抑制性神経の働きを活発にする必要がなくなる。こうして、アルコールを欲しがらなくなる仕組みだ。

 禁酒の効果を確かめる臨床試験では、半年に相当する24週間、新薬を飲む163人と、薬効のない偽薬を飲む164人で比較した。

 その結果、24週後、偽薬のグループで完全に飲酒を断てた人の割合は36%、新薬のグループは47.2%だった。「薬の効果が出た」と国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長は指摘する。

 ただ、樋口院長は「薬の服用はあくまで禁酒に向けた補助薬の位置付け」と付け加える。依存症は精神疾患に分類され、「薬物療法ではなく、心理社会的治療がメーンになる」(樋口院長)からだ。

 アルコール依存症は、通常、10週間ほど入院をして禁酒を続けることを目指す。最初の3週間ほどはアルコールを抜くと手が震えるといった禁断症状に耐えて、禁酒を続けるよう指導する。1年後に禁酒を続けている患者は全体の約3割という。禁酒を続けようとする過程で今回の新薬は有用な道具の一つになるとみている。

■肝臓への負担軽く

 禁酒補助薬は他の種類もあるが、服用中にお酒を飲むと気分が悪くなる作用で禁酒を促す。患者の中には服用をためらう人もいたという。今回の薬は、飲みたいという欲求を抑制するので「このタイプなら試してみたいという患者が増える可能性もある」(樋口院長)という。

 新薬は低分子薬という種類で、体の中で分解されることはない。アルコールとの相互作用がないため、服用中に誤って飲酒をしても特に問題はないという。肝臓への負担も軽く、肝機能障害がある患者にも使える。薬の成分が尿などから排出されるため、腎機能障害の人は慎重さが求められている。

 アルコール依存症の問題は患者だけの問題では決してない。今回の新薬を一つのきっかけとして、依存症の克服をみんなで支えていきたい。

(新井重徳)[日本経済新聞夕刊2013年7月26日付]
96958A96889DE7E5E5E6E1E5E0E2E0E7E2E5E0E2E3E1979EE382E2E3-DSXDZO5774373025072013EL1P01-PB1-16.jpg
日本新薬の新薬「レグテクト」は脳の中枢にある興奮性神経を抑制する
96958A96889DE7E5E5E6E1E5E0E2E0E7E2E5E0E2E3E1979EE382E2E3-DSXDZO5774374025072013EL1P01-PB1-16.jpg

「無宗教」が世界の第3勢力、日本では人口の半数占める=調査

「無宗教」が世界の第3勢力、日本では人口の半数占める=調査
http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPTYE8BI02P20121219

[18日 ロイター] 調査機関ピュー・リサーチ・センターが18日発表した世界の宗教動向に関する調査で、キリスト教、イスラム教に続き、「無宗教」の人口が3番目に多いことが分かった。

同機関は調査に当たり、2010年の各国国勢調査や登録人口などの調査資料約2500件を分析。その結果、キリスト教徒が世界人口の31.5%に当たる約22億人と最も多く、世界のあらゆる地域に広く分布していた。2番目に多かったのはイスラム教の約16億人で、全人口の23%だった。

また、確立された宗教を信仰しない「無宗教」の人口は約11億人で、そのうち6割以上が中国に住んでいることも分かった。日本は人口の半数以上に当たる約7200万人が無宗教で、中国の次に多かった。ただ、無宗教とされる人たちの多くが何らかの精神的な信仰を持っていることも指摘されている。

また調査は、イスラム教とヒンズー教信者が増加する見通しを示す一方で、ユダヤ教徒はその見込みが最も低いとしている。

日本もだんだん中国化していくのでしょうかねぇ。まあ、無神論と無宗教も違うしなぁ。

国内、進むアルコール離れ

焼酎の「違い」知ってる? 本格と混和、表示めぐり対立
http://digital.asahi.com/articles/SEB201212180052.html

■国内、進むアルコール離れ

 国内ではアルコール離れが進んでいる。

 宴会といえば「まずはビールで乾杯」が定番。だが、そのビールの課税出荷量は、いまやピーク時の半分以下だ。デフレで低価格の発泡酒や第3のビールが売上高を伸ばしているという面はある。しかし、低価格品を含めた「ビール系飲料」全体でも、出荷量は2011年まで7年連続で前年割れだ。清酒は長期低落、代わりに伸びていた本格焼酎も頭打ちだ。

 根っこにあるのは少子高齢化。お酒を飲む人が減っていることがもっとも大きい。くわえて若い人が、お酒を飲まなくなったこともある。かつてお酒は若者文化で大きな役割を占めていたが「楽しみは多様化している」(メーカー)というわけだ。

 メーカーもあの手この手で、流れを変えようと必死だ。最近ではハイボールや、アルコール3%程度の「低アルコール」飲料がヒット。「若者が戻る傾向もある」(サントリーホールディングス広報)という。

SEB201212180051.jpg

食道がん男性患者の3割、アルコール依存症の疑い

食道がん男性患者の3割、アルコール依存症の疑い
http://www.asahi.com/science/update/0919/TKY201209190612.html

 食道がんになった男性の約3割にアルコール依存症の疑いがあることが、京都大や国立病院機構久里浜医療センターなどのグループの研究でわかった。19日、札幌市で始まった日本癌(がん)学会で発表した。飲酒が食道がんになりやすくするとの報告はあるが、食道がん患者にアルコール依存が多いことを示したのは初めてという。

 2005~10年、全国16施設で早期の食道がんがわかり、内視鏡でがんを切除した279人の男性について、飲酒する頻度や飲み始めてやめられなかった頻度などを聞く世界保健機関のテストを実施した。

 その結果、29%はアルコール依存症の疑いがあるとの結果が出た。16%は依存症ではないが健康を害する危険な飲酒に分類された。

 アルコール依存になると食事バランスが崩れ、体をこわすまで飲酒を続けるなどがんになりやすくなる。また食道がんは切除しても、別の場所にがんができやすく、再発を防ぐには飲酒を控えるのが望ましい。

 横山顕・久里浜医療センター臨床研究部長は「外科医と精神科医が連携して依存症患者の治療をすることで、食道がんの患者を減らすことができる」と話す。(辻外記子)

食べ物への抑えられない衝動を抑える方法

食べ物への抑えられない衝動を抑える方法
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_514189魚拓

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月19日(水)10時8分配信

 カップケーキが呼んでいる。

 実際にそのクリーミーな栄養分たっぷりのスイーツを食べることはできる。ほかのことは考えられないくらい食べたいと思う。でもそれを本当に欲しているのだろうか。それとも、カップケーキが運んでくる楽しみが欲しいのだろうか。ひょっとすると、食べてはいけないと思うから余計に欲しくなるのかもしれない。食べたい衝動と戦えば衝動がなくなるだろうか。それとも状況が悪化するだけだろうか。

 科学者らは食物への渇望を理解するために、これらすべての疑問を細かく研究した。米国では肥満問題が拡大しているため、研究は危急性をもって行われた。食物への渇望は間食の習慣や食べ過ぎ、過食症といった行為に影響を及ぼすと広く信じられているためだ。

 研究によりわかったことの一部はこうだ。

 機能MRI(磁気共鳴画像)スキャンや血流の変化による脳の活動を測るテストなどにより、食物への渇望はドラッグやアルコールへの渇望と同じ脳の報酬系を活性化させることがわかった。 

 ほとんどすべての人は時折、食物への渇望を経験する。しかし女性のほうが男性より、また若い人の方が年配の人よりも頻繁に経験することが報告されている。

 ある研究によると、男性の85%が食物への渇望に屈することで満足感を得られたと回答している一方、女性はわずか57%しか満足感を得られたと回答しなかった。

 多くの女性が妊娠中に塩や脂肪や奇妙な組み合わせの食べ物に対する渇望があると報告しているが、研究者らは科学的検証ができていない。むしろ民間伝承や暗示のせいではないかとみている。

 数十年間、研究者らは食物への渇望は栄養の偏りを正すために体が無意識に行うものだと推測していた。この理論によると、例えば、ステーキを欲しがるのはタンパク質や鉄分を体が必要としている可能性が高いためとなる。チョコレート依存症はマグネシウムが不足しているのか、それとも恋をしているときに体が作り出すフェニルエチルアミンといった気分を変化させる働きをする化学物質が不足しているのかもしれない。

 しかし研究が進むにつれ、栄養の偏りを直すという考えに疑問符がついた。つまり、ビタミン豊富な緑の葉物野菜を渇望する人はほとんどいないうえ、フェニルエチルアミンをチョコレートより多く含む食べ物は他にもたくさんあるからだ。例えばサラミやチェダーチーズなどがそうだ。

 その代わり、研究により、食物への渇望は社会的、文化的、心理的要因が混合して引き起こされ、環境からのきっかけに大いに影響されることがわかった。北米ではチョコレートが最も渇望されやすい食べ物として根強いが、日本女性はすしを渇望しやすいことが最近の研究でわかった。またエジプトでは若い男性のわずか1%、女性では6%しかチョコを渇望しないことが2003年の調査で明らかになった。米ニューヨーク州オールバニの大学の心理学者ジュリア・ホームズ氏は「他の多くの言語には"craving(渇望)"に対応する言葉がない。この概念は特に米国文化のなかで重要なようだ」と話す。

 フィラデルフィアの研究施設モネル・ケミカル・センシズ・センターの食物心理学者マルシア・ペルチャット氏が機能MRIスキャンを使って行った研究により、食物への渇望の感覚記憶はドラッグやアルコールへの渇望が活性化させる脳の同じ部分を活性化させることがわかった。記憶が蓄えられる海馬、認識や感情に関係する島皮質、学習や記憶に重要な尾状核などが含まれるという。神経伝達物質のドーパミンが出て気分が良くなる、報酬系と呼ばれる作用だ。

 専門家は食物への渇望は、例えばサンクスギビングのパンプキンパイやクリスマスのジンジャーブレッドのような、たまに起こるものであれば問題ないという。また健康的な食物であれば年中渇望していてもいい。しかし、あまりに頻繁に起こるようであれば、渇望のスパイラルは制御不能になりかねない。

 脳研究者らによると、ドラッグやアルコール、高脂肪や糖分の高い食べ物などで絶え間なく脳の報酬系を刺激し続けると、ドーパミンの受容体の多くが過剰な負荷を避けるために閉じていくのだという。受容体の数が減ると、気分が良くなる感覚が減り、さらに渇望するようになるのだ。『The Hunger Fix』を著したパム・ピーク氏は「すぐにカップケーキ1個では済まなくなる。おなかいっぱい食べて、それでもまだ気分がよくならない事態になる」と話す。ピーク氏によると、食物依存症は通常であれば突発的な衝動性や依存症につながる習慣性を受け付けないはずの前頭前野を変化させてしまうという。

 食物への渇望と戦う最良の方法は何か。多くの研究は、食べ物を制限すればするほど、実験対象者はそれを欲しがる可能性が高いことを示している。これを踏まえ、研究者のなかには食べ物を制限する代わりに、食べたい衝動を受け入れ、コントロールすることを提案する向きもある。

 ロンドンのユニバーシティ・カレッジが2003年に行った研究によると、食事の合間や食後にだけチョコを食べた被験者は、空腹時に食べていた人よりもチョコを断つことに成功したという。

 また認知行動療法も有効な場合がある。オーストラリア・アデレードの研究者らは自称チョコ渇望症の110人に1週間、チョコの入った袋を持たせた。被験者の半数には「認知再構成法」――チョコを食べたい衝動に立ち向かっていく方法――を指導し、残り半数には「認知ディフュージョン(緩和)法」――チョコを食べたい衝動を受け入れ、行動することなしに、自分の衝動を観察する方法――を指導した。結果、緩和法を指導したグループはそうでないグループより袋に残ったチョコの量が3倍多かった。

 運動が食物への渇望を減らすこともある。またガムや、食べ物以外のにおいを嗅ぐことも有効だ。例えばジャスミンの香りを深く嗅ぐと、食物への渇望で重要な役割を果たすアロマの受容体がそれで占有され、渇望が減る一助となる。

 ピーク氏は渇望が起こった際にタイマーを30分にセットすることを提案する。タイマーが鳴るまで他のことに没頭すると渇望が消えている可能性があるという。「少なくとも渇望する食べ物を口にする時間を遅らせれば、習慣的に反応するのを弱めることができる」とピーク氏は指摘する。

 研究によると、食物への渇望を長く食い止めることができれば、それだけ衝動が弱まってくるという。これは朗報だ。

飲酒運転経験は依存症の86%

飲酒運転経験は依存症の86%
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201207230033.html魚拓

 中国新聞社は、広島県断酒会連合会(事務局・広島市安佐北区)の加盟11団体の会員であるアルコール依存症患者、元患者に飲酒運転に関するアンケートをした。回答者の86・9%が飲酒運転の経験があり、経験した人の66・8%が「日常的だった」とした。飲酒運転が絶えない背景に、依存症の影響がある実態が浮かんだ。

 アンケートは連合会の協力を得て、依存症患者と依存症を克服した会員の計320人に実施。73・8%に当たる236人から回答を得た。

 飲酒運転の経験の有無については、205人(86・9%)が「ある」と答えた。うち137人(66・8%)が「日常的に繰り返していた時期がある」、59人(28・8%)が「数回」とした。

 飲酒運転の経験者205人のうち、87人が道交法違反(酒気帯び運転)容疑などで「摘発されたことがある」と答えた。このうち「2回以上摘発された」のは39人。飲酒運転を繰り返した理由(自由記述)では、「いけないと思ってもやってしまった」などと依存症の影響を示す意見が12人に上り最も多かった。

 飲酒運転をした理由(複数回答)については、「ばれなければ大丈夫だと思った」が93人で最多。「悪いと思っていなかった」(36人)「少ししか飲んでいなかった」(35人)などと続いた。当時は罪の意識が薄く、安易な気持ちで飲酒運転をしていた実態も浮き彫りとなった。

 飲酒運転がなくならない理由(自由記述)は、「依存症か予備軍が多いから」との趣旨の回答が27人と最も多かった。

Tn20120723003301.jpg

依存症の回復者カウンセラーの落ち入りがちな陥穽

臨床心理士・信田さよ子 あなたの悩みにおこたえしましょう
 「一冊の本」(朝日新聞出版)より
https://aspara.asahi.com/column/nayami-okotae/entry/nx7qQGEqiI?atoken=ooMYMQxENI5H24Ap5ijxF3cF1Ia7a874

夫婦、親子、恋人、友人......。だれしも人にはなかなか相談できない人間関係についての悩みを持っているものです。経験豊富なカウンセラーが、その解決方法やヒントを示します。

Q:困っている人の役に立ちたいのです ヨウコ、57歳

 私には31歳の息子と26歳の娘がいます。息子のほうは中学校からいわゆる登校しぶりの状態が続き、高校中退後は通信制高校に入り直しました。その後もいろいろありましたが、5年間の引きこもり状態の末にやっと昨年からNPO法人が主催する自立支援施設に通うようになりました。娘のほうは息子とは対照的に高校時代から家出を繰り返し、しばらくはキャバ嬢として働いていました。年に数回しか家には戻らず、ケイタイの番号だけが消息を知る手段でした。昨年3月の震災の時にはさすがに電話をしてきましたが、皆の無事を確認すると再び音信不通になりました。先日、予告もなくひどく痩せて戻ってきたので、薬物に手を出しているのではと内心疑いましたが、娘によれば、三陸沿岸の被災地に住み込み、ある団体のお手伝いをしているとのことでほっとしています。

 夫の定年を来年に控えたいま、指折り数えると、20年近い歳月を子どもの問題に費やしてきたことに気付かされます。数多くの精神科医やカウンセラーにも出会ってきました。そんな私だからこそできることがあるのではないかと思うのです。幸いにも身体は丈夫で、エネルギーや気力は若い人に負けないほどです。私と同じ悩みを抱えた人たちに、こんな私の経験がお役に立てるのではないでしょうか。図々しいお願いですが、信田さんのカウンセリングセンターのお手伝いをさせてもらうことは可能でしょうか。もし無理であれば、どんな勉強をすればカウンセラーになれるのか教えて頂ければさいわいです。残された人生を、多くの困っている人たちのために役立てて過ごしたいのです。

A:臨床心理士とは?

 長いあいだ二人のお子さんの問題に取り組んでこられたのですね。文面には書き切れないようなご苦労もあったかと推察いたします。とりあえず余裕をもって生活できる状態にまでこぎつけられたこと、本当によかったですね。

 さて、ヨウコさんの質問は二つありますので、一つずつお答えしようと思います。

 一つめのご質問ですが、残念ながら私たちのカウンセリングセンター(以下センターと略)では、「お手伝い」をするスタッフを必要とはしていません。センターのスタッフは臨床心理士の資格を取得していることが条件です。スタッフの構成ですが、現在常勤・非常勤の合わせて13名の臨床心理士(全員女性)がカウンセリングを行っています。また3名の女性が受付業務に就いていますが、彼女たちも臨床心理士を目指して勉強中です。

 二つ目のご質問への答えにもなりますが、臨床心理士という資格について簡単に説明しましょう。現在この資格は「日本臨床心理士資格認定協会」という団体によって認定されていますが、国家資格ではありません。長年国家資格を目指してきましたが、まだ実現していないのは本当に残念です。

 資格取得までの道をざっと書きましょう。まず臨床心理学系の大学・学部を卒業し、さらに認定協会指定の大学院修士課程で2年間勉強をします。さらに実習を最低1年経験して初めて受験資格を得ることができます。試験は、筆記試験で一定程度の足切りがあり、さらに面接をクリアして初めて合格となります。正直申し上げて、かなりの難関だといっていいでしょう。ヨウコさんの年齢を考えますと、これから臨床心理学の勉強を始めるのはかなり困難かと思われますがいかがでしょう。

どんな可能性があるのか?

 では、ほかにカウンセラーになる道はないのでしょうか。すでに申し上げたように、臨床心理士は国家資格ではありませんので、「カウンセラー」と自称することは自由です。極端に言えば、明日から○○カウンセラーという看板を掲げることは可能です。

 このことからカウンセラーという名称は、かなり曖昧な印象をもたれているようです。さまざまな民間団体や学会が独自の資格を認定しているのは周知の事実です。民間団体の中には資格取得までの研修料金をかなり高額に設定しているところもあり、信頼できるかどうかちゃんと見分ける必要があります。インターネット上でもさまざまなカウンセリング機関が溢れています。

 それでも私があえてカウンセラーと自称しているのは、この曖昧さを逆に利用するためです。精神科のクリニックであれば、医師の診察は保険診療が適用されます。したがって料金も低額で済み、投薬も可能となります。いっぽうセンターのような臨床心理士による相談機関は、医療機関ではなく保険も適用されません。料金も、1時間の初回面接が1万500円(含消費税)かかります。保険診療に慣れた人には途方もなく高額に思えるかもしれませんが、弁護士相談の料金も1時間約1万円であり、精神科医の自費診療=1時間の精神療法の料金はもっと高額であることを考えると、私たちの料金設定は妥当だと思います。詳細について述べる紙数がありませんが、それだけの料金設定をしてセンターが存続するためには、精神科クリニックとはまったく異なる援助システムを構築し、臨床心理的援助の方法を身につける必要があります。そして、多くの人たちに利用してもらうために、幅広い問題をあつかい、相談の間口を広げることが要求されます。そのために「カウンセリングセンター」と名づけ、私はカウンセラーと自称しています。精神科のクリニックに比べてまだまだ認知度が低いセンターが存続するためには、このような戦略と努力が不可欠でした。

 少々説明が長くなりましたが、ヨウコさんが希望されるのはどのような活動なのでしょうか。単に困った人の役に立ちたいというのなら、ボランティアでもいいのではありませんか。各自治体にはさまざまなボランティア活動を紹介する窓口が用意されているはずです。

 また息子さんが通所されているNPO法人の活動のお手伝いをすることもできるでしょう。そんな可能性を探られるのも一つでしょう。

他人の役に立ちたいという欲望

 さて、ヨウコさんはなぜ人の役に立ちたいのでしょうか。実はヨウコさんだけではなく、これまでに何人もの方から「これまでの私の人生経験を生かして、困った人のお役に立ちたい」という申し出を受けたことがあります。そのような考えに至ることはそれほど不思議ではありません。予期せずして苦しい経験に出会い、それをなんとか「乗り越えた」と思う人は、なぜ自分にそのような試練が襲ったのかをしばしば考えるものです。

 苦しい経験であればあるほど、その意味を見つけなければ人は生きていけません。自分の経験がまったく無意味だったと考えることは、深い絶望に通じるでしょう。東日本大震災で被災された人たちも、今に至るまで、そしてこれからも、繰り返し繰り返しなぜ自分があのような目に遭わなければならなかったか、と問い続けずにはいられないでしょう。

 苦悩の淵からやっとの思いで少し這い上がったころに、同じような苦しみを味わっている他者の姿が見えてきます。その時、新たに自分の経験を同じ苦しみを味わっている他者の役に立てられないだろうか、そうすることで自分の経験に意味がもたらされるかもしれない、と思うのです。前提になっているのは、「乗り越えた自分」と「苦しみの最中にある他者」との分断です。

 体験者が自らの経験を生かして援助者になる例は、アルコール依存症の世界では珍しくありませんでした。アメリカでは、1980年代に回復者カウンセラーと呼ばれる人たちが数多く治療現場で活動しました。長期にわたって酒をやめ社会生活を送っている人が、自分の経験を生かしてアルコール依存症の治療チームの一員になったのです。日本でも80年代から90年代にかけて、アルコール依存症の回復者カウンセラーが援助者として雇用される例をいくつも見てきました。彼らは酒をやめ続けるために、ほぼ毎日自助グループのミーティングに参加します。そこではメンバー全員がアルコール依存症者であることにおいて平等ですが、いっぽうで援助者でもある場合、そこに一種の権力性が生まれてしまいます。簡単にいうと「俺はプロとして援助する立場にある」という、上から目線が生じがちであり、時に本人は意識しなくても、周囲がそうとらえることもあります。自助グループでは、このような現象を「二つの帽子をかぶる」という比喩を用いて厳しく戒めます。

 アルコール依存症のように、自助グループという相互の対等性を保証する場があっても、しばしば断酒が長い人が経験の浅い人に対して権力的で上から目線になりがちだということは、大きな示唆を与えてくれます。

わかってあげる、わかってもらうという不可能性

 さて、他人の役に立つということがなぜある種の危険性をはらんでいるかがおわかりになったでしょうか。同じ苦しみを味わったからこそ生まれる権力に、ヨウコさんは敏感になっていただきたいのです。女性同士の世界でも、子どものいない人には私の気持ちなんかわからないといった分断は日常的に再生産されています。

 ヨウコさんは、たぶん「こんな苦しみを味わったからこそ、人の苦しみをわかってあげられる」と考えていらっしゃるのでしょう。世間ではこのような考えが一般的だと思います。それは、裏返せば「同じような苦しみを味わったことがない人に、私の苦しみなんかわかるはずがない」という考えに通じます。

 では、他人の苦しみを「わかってあげられる」とは、どんなことなのでしょうか。同じ苦しみを味わったことがなければ、わかってあげられないのでしょうか。答えはノーです。津波にさらわれた経験のない人に、被災者の苦しみがわからないわけではありません。私たちに与えられた想像力こそが、体験したことのない苦しみに思いを馳せることを可能にします。

 もっとはっきり申し上げると、他者の苦しみを「わかる」ことなど私たちにはできないのです。自分の苦しみですら引き受けるのが難しいのに、他者のそれをわかることなどおこがましくてできないといったほうがいいでしょう。

 カウンセラーはクライエントの苦しみを「わかってあげる」のが仕事ではありません。わかるという言葉をめぐって発生する、わかってもらえる、あげられるという力関係はむしろ危険なものであると思います。

今こそ好機(チャンス)

 クライエントの前に座って、現在の苦しみや悲しみ、恨みや絶望についてクライエントが語る言葉を聞き、それをカウンセラー自身の想像力で再構成し類推していくこと。それがおそらく「わかる」ことなのだと私は考えています。クライエントの語った言葉を一言一句聞きもらさず、私はすべてを再構成して語り直せるように努めています。そうできることが、クライエントの「聞いてもらった」という深い満足感になると思うからです。それを経なければ、新しい方向性を提示することもできないでしょう。共感という言葉はどうしても感情重視に傾きがちです。むしろ、クライエントの語る言葉や内容をどのように把握するかという認知的側面こそ重要なのです。

 ヨウコさんにとって重要なのは、自らの経験をどの程度まで振り返り総括できているか、つまり個別的経験をどこまで相対化できているかということです。なぜなら個人的経験にとらわれてしまうことは、援助者=プロのカウンセラーとして仕事をするうえでむしろ障害になるからです。自分がこうやって苦しみを乗り越えたという一種の成功譚に固執していると、それを相手に押し付けないとも限りません。アルコール依存症の回復者カウンセラーの落ち入りがちな陥穽がそれでした。

 率直に申し上げましょう。ヨウコさんは、せっかく余裕のある生活がもどってきたのですから、少しゆったりしましょう。夫の定年退職後はいっしょに旅行にでもでかけましょう。不幸な人たちの援助をするより、少しは楽しんでみてはいかがでしょうか。私から言われるまでもなく、ヨウコさんなりにすでにいろいろ試みられたのかもしれませんね。しかしどうもうまくいかない、むしろ落ち込んでしまった。カウンセラーになるという目標を立てた途端に元気になった、ということかもしれません。

 とすれば、楽しいことには少しも食指が動かず、自分より不幸な人との分断に惹かれてしまう自分をみつめてみましょう。そして他人の苦しみを「わかってあげたい」という欲望から自由になってください。むしろ、余裕のできた今こそ、過ぎ去った嵐のような日々を振り返る好機なのです。そのために、思い切って今度は自分のためにカウンセリングを利用してみませんか?


※「あなたの悩みにおこたえしましょう」は、今回で終了します。ご愛読、ありがとうございました。

信田 さよ子(のぶた・さよこ)
臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長。1946年岐阜県生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了(児童学専攻)。病院勤務などを経て、1995年より現職。アルコール依存症、摂食障害、ひきこもり、DV、児童虐待に悩む人やその家族のカウンセリングを行っている。著書に「タフラブという快刀」「母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き」「共依存・からめとる愛」ほか多数。

過度な飲酒「脳萎縮」招く? 認知症の原因にも 脳ドック検診で確認を

過度な飲酒「脳萎縮」招く? 認知症の原因にも 脳ドック検診で確認を
http://www.nikkei.com/life/health/article/g=96958A96889DE1EBE6EBE2E0E5E2E3E2E2E1E0E2E3E09F88E6E2E2E3 (魚拓
2012/3/11付

 飲み過ぎは体によくない。一部のがんになるリスクが高まるだけでなく、認知症と関係があるとみられる「脳の萎縮」を進行させるとの見方もある。体質的にアルコールをあまり受けつけないタイプの人が飲酒量を増やした場合、最も気をつけなければならないと専門家は指摘する。

 都内在住の男性Aさん(45)は、ここ数年、物忘れがひどくなり、周囲の勧めで脳ドックを受診した。検査後、医師から「脳が縮んでいる」と告げられた。

 Aさんは若い頃からお酒が大好き。平日は仕事後に缶ビール(500ミリリットル)2~3本、週末には朝から晩まで飲み明かすことも。「まさかアルコールで脳の萎縮が進行するとは思ってもみなかった」

 脳の神経細胞が大量に死滅し、脳の容積が小さくなると萎縮が起きる。誰でも加齢とともにみられる現象だが、アルコールの大量摂取が萎縮を進行させるとする研究結果が国内外で報告されている。

96958A96889DE1EBE6EBE2E0E5E2E3E2E2E1E0E2E3E09F88E6E2E2E3-DSXDZO3949028010032012MZ4001-PB1-14.jpg
萎縮した脳(右)は正常な脳に比べ「隙間」が多い(MRI画像)

 2008年、米ウェルズリー大学などの研究チームは、飲酒量が多いほど脳全体の容積が縮小するとする調査結果を発表した。平均年齢60歳の男女1839人を飲酒量に応じて5グループに分け、磁気共鳴画像装置(MRI)を使って脳容積を測定した。最も萎縮の割合が高かったのが大量飲酒者のグループだった。一方、全く飲まないグループの萎縮の割合が最も小さく、アルコールと脳の容積の間には有意な関連性が認められたとした。

 国内でも千葉大学の研究者らが同じような結果を報告している。10年ほど前の研究だが、脳萎縮の特徴とされる前頭葉の「隙間」を計測したところ、日本酒換算で1日2合以上飲酒するグループの脳萎縮発現率は38.2%で、これ以下の飲酒のグループと比べて13ポイント以上も高かった。

がんリスクも上昇

 東京医科大学病院の羽生春夫教授は「脳の萎縮は加齢に伴って50歳以降に始まるのが通常だが、飲酒量の多い人はそれよりもやや早く始まる傾向にある」と指摘する。

 過度な飲酒が悪影響を与えるのは何も脳だけではない。

 世界保健機関(WHO)は11年、世界で年間250万人の死に飲酒が影響しているとの調査結果を発表した。03年の評価でも飲酒が口腔(こうくう)がんや喉頭がん、食道がんのリスクを上げる要因になると指摘した。

 人の体にはアルコールに関する2種類の酵素が存在する。アルコールをアセトアルデヒドに分解する酵素と、分解したアセトアルデヒドを酢酸に変える酵素だ。

 アセトアルデヒドを酢酸にする酵素の強弱は遺伝子レベルで決まっている。「酵素の働きが強く酒に強い人」「働きは弱いもののある程度は飲める人」「酵素の働きが全くない人」の3タイプがある。

 アセトアルデヒドはDNA(デオキシリボ核酸)を傷つけ細胞をがん化させる。喉頭がんや食道がんなどになる危険性が最も高いのは、ある程度は飲めるタイプで、日本人の約4割が該当する。体質的には酒に強くないにもかかわらず、「慣れ」によって飲み過ぎてしまうため、病気を引き起こすリスクを高めてしまうようだ。

 飲酒の習慣を改めるにはアルコールをいきなり断つのではなく、まずは、節酒を心掛けることが大切だ。
 酒への依存度を知ることから始めよう。インターネットなどに掲載されているスクリーニングテストを利用すれば誰でも手軽に判断できる。

96958A96889DE1EBE6EBE2E0E5E2E3E2E2E1E0E2E3E09F88E6E2E2E3-DSXDZO3949029010032012MZ4002-PB1-14.jpg

「日記」つけ節制

 次に飲酒量をどこまで減らすのか目標を設定する。慶応義塾大学の加藤真三教授は「できるだけ具体的に目標を設定した方が効果的」という。設定したら「飲酒日記」を毎日つける。飲んだ相手や酒の量などを細かく記録し、達成できたかどうかを「○」「×」で書き留める。減らそうとする努力を「見える化」するのが長続きさせるポイント。

 脳がどの程度萎縮しているのか確認するには「脳ドック」を受けるしかない。東京クリニック(東京・千代田)には年間2000人弱が脳ドックの検診に訪れる。「脳の萎縮具合を直接目にすることは、禁酒や節酒のいい動機づくりになる」(笹沼仁一・健診センター長)。検診がきっかけで酒を断った人も多くいるという。
(上林由宇太)