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たったひとつの冴えないやりかた
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2010年07月28日(水) 回復施設の抱える困難 操作的診断基準の影響 の話の続きです。
「ひとつの病名の中に、いろいろな病気の人が混じっているのが今の時代の特徴」であり、それはうつ病にしても、依存症にしても言えることです。
昔から重複障害(Double Disorder=DD)というものはありました。これは依存症の他に別の病気も抱えていることです。例えばアルコール依存症と統合失調症の両方という意味で、通例「別の病気」には身体疾患は入れません。
紛らわしいのは「合併症」です。アルコールを飲むとうつになるのですが、このうつは合併症であって重複障害ではありません。アルコール依存症患者の41%にうつがみられるものの、27%はアルコールの二次障害なのだそうです。
話は逸れるのですが、これはつまり「アル中さんのうつの2/3は酒をやめれば治る」ということです。酒と無関係なうつの人は15%ほど。これは一般のうつの有病率と比較すると確かに多いのですが、残りの85%はうつとは無関係に依存症になっていることを考えると、「うつの人が(極端に)依存症になりやすい」とは言えないと思います。
そして通常のうつの8割は半年以内に治ることを考えると、ちゃんと断酒してうつの治療もすれば、半年後にうつを患っている人は全体の数%程度にまで減るはずです。しかしネットを見ているとうつを抱えたアル中さんが多く感じられるのは、断酒かうつの治療のどちらか(あるいは両方)が順調にいかないからなのでしょう。
さて、話を元に戻します。
知り合いの回復施設のスタッフのグチを聞いていました。その人は「今の仕事は依存症の施設の範囲を超えている」と言うのです。それもむべなるかな。その施設には依存症だけの人は少なく、重複障害を持った人のほうが多いわけです。抱えている「依存症以外の問題」は人それぞれなのでしょうが、それだけにスタッフは個別の対応を迫られています。
神戸で開かれたアルコール関連問題学会のポスターセッションの中に、依存症の回復施設の抱えている様々な問題を取り上げた研究がありました。その中に入所者の重複障害のことも取り上げられていました。
例えば高齢の人の認知症。あるいは統合失調症(圏)の人。これについてはそちらの専門の施設が充実しているので、うまく連携を取っていけば回復施設の負担は減ります。(話は逸れますが認知症のアル中さんの断酒維持率は決して悪くないのだとか。それは認知症の進行に伴って酒を飲むことそのものを忘れてしまうのだそうです。定年アル中の断酒率が高いのもこれと関係があると言っている人もいました)。
他の施設の人とも話をしていたのですが、どうやら回復施設には重複障害を抱えた人が集まりやすい傾向があるようです。例えば統合失調のグループホームでは、アル中の面倒は見きれません。なにぶんそちらの施設は依存症のケアができるところではないのですから。なので、そういう人たちが回復施設に回されて難しいケースが集中している可能性はあります。
そして忘れてはならないのが発達障害です。アスペルガーやADHD、知的障害があると、やはり回復は他の人より時間がかかります。なかでも障害が重くて、なかなか回復しない手のかかる人たちが、自助グループや病院では面倒を見きれなくなって施設に送られている、という図式があるのはほぼ間違いないことだと思っています。これについては大人の発達障害をケアできる施設がないので、回復施設も連携する先がないのが困ったことなのです。
実際に施設の中で行われている支援を聞いても、それは炊事や洗濯、買い物、金銭管理のやり方を教える生活指導であり、人間関係の構築の練習です。それは精神障害、発達障害へのケアを手探りで長年やってきた成果なのでしょう。しかもスタッフは自分たちが何をしているか意識せず、重症?に見える依存症の人たちを回復させようと懸命にやってきた結果です。その大変さにはまさに頭が下がる思いです。
しかし相対的にステップなどの依存症治療の比重が下がったことは否めません。回復施設の専門性が、依存症分野にではなく、重複障害のほうに発揮されてしまうのは、手放しで喜べないことです。というのも、重複障害を抱えた人たちは場合によっては何年も施設にとどまります。結果として施設がそういう人たちであふれてしまい、上に書いたようなスタッフの疲弊を招いています。
施設から回復者が次々と生み出されれば、世の中に回復者が増えることで回復を容易にする様々な相乗効果が期待できます。しかし施設の回転率が落ちてしまえばそれも期待できません。もとより、施設の専門性が「依存症以外の分野」に発揮されることで、依存症に対する誤解を増やす恐れすらあります。(依存症以外の問題が依存症の問題だと誤解される)。
なにがこうした事態を招いてしまったのか考えてみます。
まず第一は、重複障害という難しい問題は、医療機関が責任を持って面倒を見るべきことなのに、それが回復施設に任されてしまっていることです。医療機関で対応することが難しければ、公的に専門の機関が作られるべきです。
また、回復施設の経営上の都合もあるのでしょう。一ヶ月や三ヶ月という短期でプログラムを終えて退所させていくと、施設の稼働率を気にしなければならなくなります。退所者のぶんだけ、新規顧客を獲得する努力が必要になります。その点、生活保護なり自立支援法という資金の出所がある長期入所者の存在は、施設の経営を安定させるメリットがあります。ただし、これについては、回復施設の経営戦略を責めるのではなく、施設の経営基盤の脆弱さが放置されていることを社会の問題にすべきでしょう。
重複障害を抱えた人が存在する以上、誰かがそれに対処する必要があります。
しかし回復施設という社会資源のかなりの部分が、そのために費やされているのは望ましいことではありません。
しかも、それが重複障害ならともかく(その一つには依存症が含まれるのでいい)、依存症とは言えない人たちまで引き受けることになっているケースも見受けられます。そうなってくると、ますます何の施設なのか分からなくなってきます。
学会の信田さよ子先生の講演の中に、1970年代、80年代の医者たちは、依存症治療という難しい分野を開拓していこうという気概があったものが、90年代から風向きが変わりだし、病院を辞めてクリニックを開業して回復の容易な中年サラリーマンアル中のデイケアばっかりやっているという批判がありました。そうした変化も、この状況を招いた一因と言えなくないでしょうか。
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